未来のコミュニティ研究室公開オンラインミーティング記録3 『おこめ部』
2020年3月9日、ゲストハウスやまなみにて「飛騨市関係案内所オープンに向けた未来のコミュニティ研究室公開ミーティング」が開催されました。地方創生のキーワードとして、近年盛んに取り上げられている「関係人口」。今年度、未来のコミュニティ研究室では、このホットなテーマにいち早く着目し、関連した研究と実地プロジェクトを並行して進めてきました。本イベントでは、1年間の成果の発表と来年度の活動の紹介、さらにはより良い活動の実現に向けたワークショップを行いました。その様子を、5本の記事に分けてご紹介します。
第3本目の本記事では、3本の実証プロジェクトのうち「おこめ部」の発表の模様をお送りします。
▼前回までの記事
上原:では、次の発表に移ります。2つ目のチームは「おこめ部」です。こちらも、テレビや新聞・SNSなどで取り上げられ始めているので、ご覧になられたことがある方もいらっしゃるのではないかと思います。
では、早速おこめ部の課題オーナーのお二方、よろしくお願いします!
麻生 貴秀 氏(以下、麻生):こんばんは。それでは、飛騨米世界ブランド化プロジェクトについて発表したいと思います。
おこめ部を始めたきっかけ
まず、おこめ部は飛騨米の世界ブランド化を目指すチームとして、昨年の3月14日に発足しました。
そもそも飛騨の米というのは、全国でも有名な米のコンクールでたくさん金賞を受賞しています。中でもみつわ農園さんは飛騨市を代表する米農家で、コンクールでは7年連続で金賞を受賞しています。特に最高峰である金賞を取るのは、東大に受かる確率の20倍も難しいと言われています。
それだけ、飛騨のお米は価値が高い。けれどもその価値が価格に反映されていないというのが現状です。そこで私、飛騨市の農業振興課の麻生とみつわ農園の畠中望さんが、飛騨市の関係人口プロジェクトに乗っかってブランド化に向けた取り組みを始めることになりました。
おこめ部の目標とメンバー
その思いに賛同して協力してくれたのがこちらのメンバーです。携わるきっかけや目的は様々ですが、おこめ部が目指す目標に向かって一丸となり、様々な取り組みを行ってきました。
私たちの目指すところとして、「農業を持続可能な形とする」ということが根底にあります。そのためには、まずは主役である農家さんが儲かる必要があると思っています。農家さんが儲かることにより、それを目標に担い手農家が増え、新たな農家の育成にも繋がり、米農家の仕事の質が高まり美味しいお米ができる。そしてそれがいずれはブランドになっていくというサイクルを実現するために、質が良く希少性の高い飛騨の米をブランド化する必要があると考え、この1年間様々な取り組みを行ってきました。
1年間の活動記録
ではまず、どのような活動を行ってきたかということを紹介します。3月におこめ部が発足したのを皮切りに、4月には古川祭りでお米の試食PRブースを出展しました。合わせてお米のニーズや普段食べているお米の価格帯などについてのアンケートも実施しました。そこで得られた結果と試食のニーズを分析し、「特別な日に食べてもらう特別なお米」というニーズがあるのではないかと考え、みつわ農園の新しいブランド「万天」を開発しました。
8月にはクラウドファンディングを通して万天を発信し、10月には協賛いただいた方へのリターンとして、稲刈り体験と飛騨ランチ会を実施しました。
11月の発掘祭では、飛騨の米とコンビニのブレンド米との食べ比べや、「どうして飛騨は美味しいお米ができるのか?」という背景を来場者の方に発見してもらえるような取り組みを行いました。
12月には、万天ランチ体験会や、万天の真空パック米の発売開始。そして3月からはおこめ部アンバサダーの方のFacebook投稿が開始しました。
次にここで、望さんから「万天」に込める想いを聞いてみたいと思います。
畠中 望 氏(以下、畠中):はい。飛騨のお米は数々の賞を受賞していますが、その価値はまだまだ認められていません。そんな状況を変えるために、飛騨の美味しいお米をたくさんの人に食べてもらいたい、その価値を感じてもらいたいという想いと、万に一つの飛騨のお米が満天の星空のように輝き続けるという想いを込めて、「万天」と名付けました。
麻生:ありがとうございます。こうして、1年間を通して活動を続けた結果、テレビや新聞などにたくさん取り上げてもらいまして、注目を集めるきっかけとなりました。
クラウドファンディングでは、飛騨のお米はとても希少なお米であること、飛騨は美味しいお米ができる環境であることなど、飛騨のお米の価値を知ってもらう良い機会となりまして、多くの方にご支援をいただきました。
元々、クラウドファンディングを始める前までは、市場価格で350円/1kgで販売されていました。望さん、この取り組みを終えた現在はおいくらで取引されているんでしょうか?
畠中:はい、万天は現在1,000円/1kgで取引を行っています。
麻生:ありがとうございます。現在は1,000円/1kgという非常に高い値段で販売されているということで、飛騨のお米の価値が認められつつあるのかなということだと思います。
一方で、飛騨の米職人や学生、社会人などが賛同して作られた「おこめ部」のFacebookグループですが、現在は1,000いいね!を目指しつつ、お米に関する記事をアップしています。そして、今年の2月には、飛騨のお米を一緒に盛り上げていただくアンバサダーを募集したところ、クックパッドアンバサダーの方や、5つ星マイスターのブロガーの方など、いろいろなところで活躍している方からの応募があり、3月からFacebookページに随時投稿していただいております。
さらに、10月の収穫体験や12月の万天のランチ会を開催しまして、参加者の方からはとても良い評価をいただきました。望さん、この体験を通した参加者の方の反応はいかがでしたか?
畠中:参加者の方にアンケートをとったところ、満足度オール5をいただき、とても手応えを感じました。
麻生:ただお米を食べるだけでなく、実際に一緒に田んぼに行って稲刈りをしたり、お米を炊く時のこだわりを聞いたりなど、普段味わえないことをこうした活動を通して体験するということがとても大事だということがわかりますね。
1年間の活動の中で感じた、たくさんの方々とのつながり
では望さん、1年間の活動を通して、支援してくださった方などとどのような関係性が生まれましたか?
畠中:クラウドファンディングでは嬉しいメッセージをたくさんいただきました。また、お米を食べた感想以外にも、どうやったら万天がもっと売れるようになるか?といった提案をしてくださる方もいらっしゃいました。
収穫体験では、飛騨のことをあまり知らなかった方が体験を通して自分ごとのように感じ、熱狂的なファンになってくださったり、こうした米農家との関わりに新鮮味を感じて、もっと深入りしたいという方もいらっしゃいました。
また、農家や市などが関わっているイベントに共感したというコメントもあり、飛騨に興味があって米の美味しさや米農家の話を聞いて、もっと飛騨に興味が沸いたという方もいらっしゃいました。
麻生:なるほど。こうした体験に参加される方というのは、飛騨を知る人も知らない人も、あるいは飛騨の米を食べたことがない方もいらっしゃったわけですが、おこめ部の雰囲気や農家さんたちとのトーク、実際に収穫を体験する関わりで新しい関係性が生まれてきたということだと思います。
そして、望さんにはもう一つコミュニティがあると伺っていますが…
畠中:はい。関係人口のキックオフワークショップ後に、今すぐできることはないかと考えて始めたのが、みつわ農園のインスタグラム開設でした。面白いことに、普段の作業風景を投稿していただけなんですが、米農家の方だけでなく子育てママや、農機フェチの方など、マニアックな世界でシェアされることもあり、これも一つのコミュニティが生まれたのではないかと思っています。
麻生:ちなみに今のフォロワーは1,000人は達成されたんでしょうか?
畠中:達成できて…いません。990人です。是非皆さんフォローをお願いします!
麻生:あと10人!皆さん是非よろしくお願いいたします!
お米で始まる関係性
さて、ここまででおこめ部の取り組みや成果についてお話しさせていただきましたが、これまでの活動を通して見えてきた、お米で始まる関係性について考えていきたいと思います。
見えてきた関係性として、私たちは3つのパターンを発見しました。
1つ目は、軌跡の体験をすることで熱狂的なファンになる「激変タイプ」
2つ目は、中の人や背景を知ることで共創者になる「共感タイプ」
3つ目は、軌跡の体験や背景を知ることでもっと飛騨が好きになる「確認タイプ」です。
ではこれらを1つずつみていきたいと思います。
1つ目の激変タイプですが、ただ普通の美味しいお米を食べるだけであればそれで終わってしまいますが、そこに米農家の面白い話や熱量のこもった話、あるいは体験をすることで、より濃い関係人口が築かれます。農家さんの人柄や想いを知ることで、一気にプラスαの重みがつき、さらに美味しく感じられ、まさに「激変」するということです。
2つ目の共感タイプですが、元々飛騨も飛騨のお米も知らないという方々が、米作りに適した環境であることや、美味しいお米を作る人に出会って話を聞くことで、飛騨に興味が沸き、飛騨の米に共感してくださるのではないかと考えました。
最後に3つ目の確認タイプですが、元々飛騨に良い印象を持っている人が、飛騨の米に興味をもって活動に参加し、飛騨や飛騨の米、飛騨に関わる人などをもっと好きになったり、「大好きな飛騨」の「美味しいお米」だから、さらに魅力的に感じ、積極的に関わろうとするようになったりするということが考えられます。
つまり、飛騨のうまい米が飛騨をますます好きにさせる促進剤の働きをしているのではないか、と考えました。
そして、これらの関係性を踏まえまして、以下の4つのことに気がつきました。
今回、おこめ部の活動を通して、携わってくれた方々や興味を持ってくれた方々のおかげで、私たちには様々な気づきや発見がありました。今後はこうした取り組みを各農家に共有していくことはもちろん、将来に渡って持続可能な農業の実現に一歩でも近づいていきたいと思っています。
最後に、望さんからこのプロジェクトを通して感じたことをお聞きしたいと思います。
畠中:この活動を通して、1年で米騒動を起こそうとしてきた中で、本当にたくさんの方との繋がりができ、いろいろなシーンで小さいながらも、米騒動を起こすことができたと思います。ただ、1番米騒動が起こったのは私自身だったのかもしれません。1年前まで、なんとなく、仕方なく農業をしていた私には、この1年は本当に刺激的で、お米の魅力を再発見する1年となり、その中で何かを人に勧めたり、心を動かしたりするにはそのものの価値や魅力をしっかり伝える必要があり、そのものの本質をわかっていなければ、人の心を動かすことはできないんだということに気づかされました。
今の私は農業を心から楽しんでいて、自信と誇りを持っています。その想いとお米の可能性を信じて、これからもたくさんの方との繋がりを大切に、太く深く広げていきたいと思います。
Q&A
上原:ありがとうございました!そして、今インスタグラムのフォロワー数が1,000を超えました!おめでとうございます!
そして、コメントもいくつかいただいております。
石棒は市内にもPRしても良いかと思いましたが、お米についてはもっと外に向けての方が良いですね、というご意見や、みんなの博覧会で連続プログラムをやってほしいです、というご意見、米炊き名人コンテストを開催したらどうですか、というご意見などをいただいています。
また、さくら物産館の方が「水が違うと米が違う」とおっしゃっていたので、「水、炊き方」も広めると良いのではないでしょうか、ということです。
畠中:実は今飛騨のお水とコラボが決まりまして、企画を進めているところです!
上原:タイムリーな話ですね。
最後に、「友人7人とお米を食べました。大好評でした!」というお声もいただいています。
では、おこめ部の発表は以上になります!ありがとうございました!
ライター:蛯谷夏海
東京大学 大学院農学生命科学研究科所属。2019年3月に飛騨の旅館のお手伝いをしたことをきっかけにFCLを知り、参加。修士論文では「関係人口の具体化」をテーマに研究に取り組む。地方を飛び回って現地の人と交流するのが大好き。
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